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情報過多社会で「自分らしさ」を見つける、主観と客観的視点。異なる視点から考える「アイデンティティのつくり方」(後編)

現代は「一億総クリエイター時代」とも言われ、インターネット上には無限の情報が溢れています。従来の偏差値や大企業への就職といった決められた選択肢に囚われない様々な価値観や生き方が生まれ、自由に選択できる時代。その中で生きる多くの人々は自分の表現を模索し「自分とは何者か」という問いに直面しています。

そんな時代の若者たちに手を差し伸べるのが、アイデンティティ・アカデミー(Identity Academy)を創立し、『アイデンティティのつくり方』を共著した森山博暢さんと各務太郎さんです。森山さんは外資系投資銀行で債券のトレーディング業務に従事し、生粋の定量思考を持つ一方、各務さんは「デザイン思考」を駆使し、数値化が難しいクリエイティブの第一線で活躍する定性思考の持ち主です。

今回は、著者の二人に担当編集者の小早川幸一郎がインタビューし、異なる視点から導き出された「アイデンティティのつくり方」について深掘りしていきます。

前編では、森山博暢さんに定量的な視点から捉える、アイデンティティの見出し方についてお話を聞きました。後編では各務太郎さんにクリエイティブな視点から見つける「自分らしさ」について掘り下げます。

※この記事は、2024年6月配信の、クロスメディアグループの動画コンテンツ「ビジネスブックアカデミー」を元に文章化し、加筆・編集を行ったものです。

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各務太郎(かがみ・たろう)

(株)SEN代表/建築家/Identity Academy理事
早稲田大学理工学部建築学科卒業後、2011年株式会社電通入社。コピーライター・CMプランナーとして主にCM企画に従事。2014年、東京五輪開催決定を機に、建築家として都市の問題に向き合いたいという強い想いから同社を退社。2017年ハーバード大学デザイン大学院(都市デザイン学修士課程)修了。2018年(株)SEN創業。ホテル事業を経てヘルスケア事業を展開。著書に『デザイン思考の先を行くもの』『アイデンティティのつくり方』(共著)(以上、クロスメディア・パブリッシング)がある。

「Identity Academy」(アイデンティティ・アカデミー)

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小早川幸一郎(こばやかわ・こういちろう)

クロスメディアグループ(株)代表取締役
出版社でのビジネス書編集者を経て、2005年に(株)クロスメディア・パブリッシングを設立。以後、編集力を武器に「メディアを通じて人と企業の成長に寄与する」というビジョンのもと、クロスメディアグループ(株)を設立。出版事業、マーケティング支援事業、アクティブヘルス事業を展開中。

自らの魅力を見いだす、客観的視点

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小早川 各務さんの、これまでの経歴を教えてもらえますか?

各務 大学は建築学科を卒業し、新卒で広告代理店に入りました。そこでコピーライターとして3年ほど勤めた後、アメリカに留学して、大学院でもう一度建築を学びました。それから、日本に戻って起業したという流れです。

小早川 なぜ大学は建築学科を卒業されたのに、新卒で広告代理店に就職したのですか?

各務 幼いころから建築家に強い憧れがありました。当時の私にとって建築家はウルトラマンのようなヒーロー的存在で、彼らのようになりたいと思っていたんです。その熱意は高校生になっても冷めず、絶対に建築家になろうと決意して大学の建築学科に進みました。

大学でいろんな建築家の本を読むうちに、建物や空間が形作られる前には、まずテーマやコンセプトが言葉として表現されることを知り、それから徐々に建築家が語る言葉や言説自体に興味を持ち始めました。

特に憧れていたのがオランダ人の建築家レム・コールハースです。彼は、ジャーナリストや作家という言葉の専門家を経て建築を学び、現在は世界中で活躍しています。彼の生き方を見て、言葉の重要性を感じました。

そこで、自分の憧れる建築家になるためには、まず言葉を学ぶ必要があると考え、コピーライターという職種がある広告代理店への就職を決めたんです。

小早川 言葉の重要性について考えられていたのですね。芸術家としての表現という意味で言葉が必要と感じたのですか?それとも、実際に建築家の仕事をする上でも言葉が必要だったのでしょうか?

各務 例えば、国立競技場のような話題性のある建物を建てるとき、「建築コンペ」という建物を設計する建築家や事務所を選ぶコンテストがあります。コンペの勝敗を決める大きな要素となるのは、企画コンセプトの文章です。

なぜなら、施工を依頼する主である施主さんは建築家を選んだ理由を、説得力を持ってメディアなどで説明する責任があるからです。「建築コンぺ」で勝ち残るためには企画やコンセプトを魅力的に伝える必要があるんです。

小早川 それで広告代理店に就職したというわけですね。各務さんは以前、仕事を通じて感じたこととして「人は自己紹介がうまくできない」という話をされていましたね。

各務 私は広告代理店に入社してすぐのころ、企業様に対して「自社のCMは自社で作ればいいのに」と思っていました。自分たちがエネルギーを注いだ商品を宣伝するんだから、自分たちが1番その良さを理解しているはずだと考えたのです。でも、それができないから、広告代理店があるんですよね。

なぜできないのかというと、人は、自分が最もエネルギーを注いだ部分が自分の1番の売りになると思いがちだからです。でも、商品の魅力はお客様が決めるものです。インスタントラーメンを例に挙げると、メーカーが何十億円もかけて研究を重ね、素晴らしいスープが完成したと思っていても、お客様は麺の食感の方が好きだということがあります。そうすると、ラーメンの売りは麺になるべきです。でも、メーカーが自社でCMを作ると、この状況が見えず、スープばかりを強調してしまいます。

これはCMや広告に限らず、自分自身を表現するときも同様です。自己紹介をするときに自分の良さを相手に的確に伝えることはとても難しいのです。

私は、建築や広告のコピーライターとして、クライアント企業様のアイデンティティを見いだし、表現してきました。でも、クリエイターという限られた世界から人生という広大な庭に出たときに、自分のアイデンティティが全く見えていないことに気づいたんです。自分の良さを見つけるためには主観から離れ、自分自身を客観視することが重要になってきます。この考え方のメソッドを伝えたいという想いで、今回クロスメディア・パブリッシングから出版した本、『アイデンティティのつくり方』の執筆に取り組みました。

人生はアイデンティティを探す旅

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小早川 『アイデンティティのつくり方』は、前編でお話いただいた森山博暢さんとの共著です。お二人の出会いのきっかけを教えていただけますか。

各務 最初のビジネスを始めたときからお世話になっています。

私は、アメリカの大学院で建築を学んでいたときに、外国人観光客をターゲットとする「泊まれる茶室」をテーマにしたカプセルホテルのビジネスを考えました。それで、2017年の夏頃日本に帰国してから、半年ほど準備をして仲間3人で起業したんです。当時私は、留学や起業の準備で無一文になっていたので資金調達が必要でした。そのときに、アドバイスをしていただいたのが森山さんです。

小早川 そこから、アイデンティティ・アカデミーという学校の創業に関わっていく経緯を教えてもらえますか?

各務 2020年の秋ごろだったと思いますが、森山さんが会社を辞めて学校を作るという話を伺い、最初はウェブサイトやロゴマークのデザインをお手伝いさせていただきました。その過程でアカデミーのコンセプトやカリキュラムを聞くうちに、話に引き込まれるようになりました。それは、金融やリスクマネジメントの知識を駆使して意思決定をデザインするというものでした。

森山さんは外資企業で金融のトレーダーとして20年以上第一線で活躍されてきた方です。私は金融関係の方は数字だけを見て、客観的な観点のみで意思決定をしているというイメージを持っていました。でも、森山さんは、主観的な想いを語っていたんです。「こういう未来にしたいんだ」というパッションが意思決定に大きく影響していると感じました。

このとき、森山さんから「最初は客観的に未来に起こり得る選択肢を考えてから、最後は主観で意思決定をしていく」という話を聞きました。対してデザイナーは、まず主観で想像して、その後お客様の評価に合わせて変更を加えるという客観的視点を取り入れます。森山さんと私の思考は一見真逆にも感じますが、行きつくところは同じだったんです。このアプローチを取り入れて、アカデミーのカリキュラムに私の専門であるデザイン思考を絡めることから、プログラム自体を一緒に創らせていただくという関係が始まりました。

小早川 私と各務さんの出会いは、各務さんがアメリカから帰国されて、お茶室型のカプセルホテルをこれからつくろうというときでした。自分で資金調達やホテルの設計をして、プロジェクトマネジャーと社長を兼任されていましたよね。

各務 実はそのホテルは新型コロナウイルスの影響で閉鎖せざるを得なくなったんです。その瞬間、私のアイデンティティは崩壊しました。

小早川さんと一緒に作った1冊目の本『デザイン思考の先を行くもの』を出版した当時は、アメリカから帰国したばかりで、新しい事業を考えたり、アメリカで学んだことを伝えるセミナーをしたりしていて、人生を最も楽しんでいるタイミングでした。今回の本『アイデンティティのつくり方』の執筆中は、まさにどん底。小早川さんには人生の好調な時期と不調な時期の両方の面を見ていただいています。

小早川 まさに、人生は何が起こるかわからない、アイデンティティ探しの旅ですよね。

「締め切り」はクリエイティビティを最大限に引き出す

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小早川 今回『アイデンティティのつくり方』の編集を担当させていただいて、面白いと感じたのは、金融という圧倒的客観思考を連想させる森山さんと、クリエイティブで主観的な考えを持つ各務さんが、一見真逆とも思えるコントラストを上手く噛み合わせて1冊の本に仕上げているという点です。定量的思考の方も定性的思考の方も、逆側の思考を覗いてみたくなるような本の構成になっていると感じます。

各務さんが読者の方に本を通じて特に伝えたいと感じているところはありますか?

各務 特にお伝えしたいことは、2つあります。

まず、「好きなことで生きていく」「やりたいことを見つける」という考え方に対して、プレッシャーを感じる必要はないということです。目指すものが明確でなくてもいいと思うんです。これまでの人生で、意図せず、時間とお金を使っていたことを振り返って整理してみると、自分がどんなことにエネルギーをかけられるのかがだんだん浮かび上がってきます。それが、好きなことや自分らしいことだと思うのです。

2つ目は、とにかく一度小さく始めてみてほしいということです。やりたいことは、参考書を見つめていたりカフェの椅子に座って考えていたりしても見つからないと思うのです。だから、「やりたい」という想いがあったら、スモールスタートしてみる。そうすると、上司や友達に「それいいじゃん」とか「これもっとこうするといいよ」と言われて、どんどん道が開けてくることがあります。その感覚は、まずやり始めないと分からないんです。

小早川 私も原稿から読ませていただいていて、「こうやればいいんだ」と思ったり、自分がやってきたことは正しかったんだなと感じたり、いろんな視点や気づきを得られました。本の内容に共感される方も多かったのではないでしょうか?

各務 私の周りにも、本を読んで答えあわせのように感じてくださる方がいて、「無意識にしていた行動が正しいと思うことができた」というコメントをいただいたくことがありました。とても嬉しかったです。

小早川 感じていることや考えを言語化して人に伝えるのは難しいですよね。

各務 章立ての時点で森山さんと数ヶ月にわたって議論を重ねました。試行錯誤を繰り返し、最初の構想から大きく変わりました。

小早川 私は『アイデンティティのつくり方』の編集を担当させていただいて、本の制作が始まってからしばらくはお二人に全てお任せしていましたね。でも、テーマが難しいので、期限がないと、時間がかかりすぎてしまうかなと感じて、出版までのスケジュールをお伝えしたんです。タイトなスケジュールでしたが、お二人ともプロとして高いクオリティーで締め切りの期間内に仕上げてくださいました。

各務 小早川さんこそ、編集のプロとして絶妙な締め切り設定でした。「締め切り」はクリエイティビティを最大限に引き出す魔法の言葉だと感じました。

「やらないこと」を決めることで「やりたいこと」が見つかる

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小早川 今後は、どのようなことやっていきたいですか?

各務 私は建築が好きです。建築家として、いろいろなことに挑戦していきたいです。その1つとして、今取り組んでいるメンタルヘルスケアの事業とも掛け合わせながら、自分にしかできない空間や街を構想していきたいと思っています。

建築は、アート、デザイン、ビジネスの三角形の中にあります。アートは自己表現や主観によるもので、デザインは客観的な課題解決、ビジネスはアートとデザインを組み合わせて創造した建物を社会に実装することだと考えています。その中で、何十年先の街の姿を考えていくことが、人生を通して取り組むテーマだと感じています。

小早川 今までやられてきたことと建築を組み合わせて、表現していきたいということですか?

各務 スティーブ・ジョブズの言葉に「Connecting the dots(点と点をつなげる)」というものがあります。これは、過去の経験が、その当時は思いもよらなかった形で役立つという意味です。ジョブズの場合、目の前のことをやっていく中で後からつながるというイメージですが、私は「これをつなげたら面白くなりそうだからもう1つドットを増やそう」という考え方で、組み合わせながらやってきました。

例えば、建築というドットに対して言葉というドットを増やすことで、建築コンペで選ばれるような面白い作品が生まれるかもしれないとか、今の社会から求められるビジネスの視点を建築に組み合わせたら、もっとサステナブルな空間が生まれるかもしれないという感覚で、ドットを増やしていくんです。意図的に「Connecting the dots」をやってみるという考え方です。今まで集めてきたドットは、私自身が人生をかけて極めてきたものです。なので、そのドットを集めてつくり上げる作品は、どの段階で世の中に出したとしても、集大成と胸を張って言えることを目指して日々挑戦しています。

小早川 最後に、この本の読者の方、またはこれから本を読もうと思っている方にメッセージをお願いします。

各務 「好きなこと」や「やりたいこと」が見つかったら、どんどんスモールスタートをしてほしいです。好きなことができるということは、人を生き生きさせますから。

もう一つ、とても重要なことは、やらないことを決めるということです。今のSNSやインターネットの情報を見ていると、どの発信もキラキラしていて「あれもやりたい」「あの人もかっこいい」「あんなふうになりたい」と感じてしまいますよね。ですが、時間は有限です。

たくさんの情報の中から自分がやりたいことを見つけるのは、大きな生地からクッキーの型を使って切り取る作業に似ています。つい私たちは切り取られたクッキーそのものに目を向けてしまいがちですが、実は型で抜かれたあとの生地の方にもクッキーと同じ形が残っています。これは比喩表現ですが、実はやりたいことばかりを考えるのではなく、やらないことをドンドン決めていくことでも、やりたいことの輪郭は見えてくる可能性があります。アイデンティティは消去法でも見つかると思うのです。

編集・文:渡部 恭子(クロスメディア・パブリッシング)

アイデンティティのつくり方

著者:森山博暢/各務太郎
定価:1,738円(1,580 +税10%)
発行日:2024年5月2日
ISBN:9784295409649
ページ数:272ページ
サイズ:148×210(mm)
発行:クロスメディア・パブリッシング
発売:インプレス
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